留学

Wayne State University 短期研究留学 まとめ

 
あっという間の3ヶ月間でした.
 
研究,臨床,キャリアの3つに新たな考えを得られた実りある滞在でした.
 
そして,次に繋がるリサーチフェローのポジションも得ることができました.
 
 
研究,臨床,キャリアの3つの観点から述べさせて頂きます.
 
 

研究

浅野研究室と自分の研究

浅野先生はミシガン小児病院のてんかん手術患者の頭蓋内電極を用いて,てんかんの研究,大脳生理の研究を行なっています.世界のてんかん・神経科学の研究を引っ張っていて,2017年に4Dのブレインマッピングに成功しています.
 
 
浅野先生の研究室には,日本人のリサーチフェローの先生方が数人いて,研究を行なっています.僕は,眼が左右に動く際のサッカード運動と開閉眼に伴うアルファ波の脳波の変化を4Dのブレインマッピングにすることをしていました.
 
 
主な仕事内容は,ビデオ脳波モニタリングの患者さんの眼の動きをひたすら見ながら,脳波に印(タグ)をつけることです.カメラの位置,患者さんの状況,電極の状況等様々な因子が重なり,なかなか大変でした.なんとかデータを集めて解析し,動画になった時は嬉しかったです.今年のアメリカてんかん学会で僕が発表し,違う先生が引き続き解析を行い論文化する方針です.
 

研究の仕方

 
臨床と研究の両方をしたいため,どのように研究していくのかを学ぶ非常に良い機会でした.浅野先生が良く言っていたのが「確実に論文になることだけをやる」です.無駄なことをせずに確実に結果を出す.結果に結びつけるには,膨大な背景知識,練られた研究デザイン,正しい統計の使い方が必要になります.
 
 
手稲渓仁会病院でも臨床研究の勉強会があり,初歩的な考え方やEZRの使い方はある程度できるようになりました.しかし,まだまだ勉強と実践不足です.後述するリサーチフェローの間に研究デザインと統計について実践を通して学ぶ予定です.臨床留学が上手くいけば,後述するClinical/Translational ResearchのPh.Dコースをアメリカで受けて本格的な教育を受けられればと思います.
 
 
 
 

臨床

研究がメインですが,カンファレンス,手術等の臨床の現場も見ることができました.
 
 
毎週月曜日にてんかんカンファレンスがあり,小児科,脳神経内科,脳外科,コメディカルが集まり症例検討会を行います.悩ましい症例,外科適応症例の1〜3例をクリニカルフェローが発表し,皆んなで議論します.
 
 
様々な専門家の意見を集めて,難しい症例でも,必ず結論とプランを明確にしていました.症候学から治療まで色々と学ぶことができて非常に勉強になります.毎週,このカンファを楽しみにしていました.カンファレンスに加えて,てんかん手術,インフォームドコンセント,マッピングのタスクも見ることができました.
 
 
臨床現場では,クリニカル・フェローが大きな役割を担っていました.クリニカル・フェローは標準化された2年間のトレーニングを通して,てんかん医として一人立ちする能力を獲得します.日本では標準化されたものが無いため,米国でトレーニングを受ける価値は高いと思います.日本で専門医を所得していて,米国の専門医取得の意志がなければ,クリニカル・フェローとしてこの2年間だけ経験するのでも良い経験だと思います.
 
 
Epilepsy Fellowshipは人気が高くなくInternational Medical Graduate (IMG)が多いため,もし,どこかにコネクションがあればクリニカル・フェローとして来るのは可能だと思います.ミシガン小児病院の2人のクリニカル・フェローは韓国人,スロバキア出身の2人のIMGでした.
 
 

キャリア

臨床留学に関して

 
臨床現場を見れたのに加え,この滞在で臨床留学を実現した10人近くの先生方にお話を聞くことが出来ました.新たに知れたことが多々あり,大変参考になりました.手稲渓仁会病院の先輩でCase Western Reserve Universityの津島先生には本当にお世話になり,色々なアドバイスを頂きました.
 
 
相談する中で,純日本人,STEP1の点数が低いという欠点を克服するにはSTEP2 CKの高得点, CSの一発合格,STEP3合格に加え,強いコネクション,アメリカでの臨床/研究経験が必要と再確認しました.
 
 
CKは地道にコツコツやれば高得点は取れそうな感じですが,問題はCSです.2017年に合格率が下がり,日本人の合格率は恐らく3割程度ではないでしょうか.僕の知り合いは結構落ちていています.純日本人が英語力のSpoken English Proficiency (SEP)で落ちるというパターンで共通しています.
 
 
僕はUSMLE界で有名な瀬嵜先生の戦略を参考にSEP対策を最重要視しています.ECFMGを取得した帰国子女の友人に喋ってもらったフレーズのシャドーイングを繰り返して完璧にして,カルテ書きも含めたケースの練習を繰り返して対策します.
 
 
次に,強いコネクション,アメリカでの臨床/研究経験を得る為には何をすれば良いのかが問題になります.そして,その1つの手段がリサーチフェローです.IMGを採用する際にアメリカの医療に馴染めるかが問題になるため,リサーチフェローを一定期間行うことで,臨床現場では無いものの,米国の医療にある程度適応しているという証拠になります.さらに,英語への慣れ,研究実績,コネクション形成に役立ちます.そのため,他国のIMGがよく使う手段です.
 
 
 

Case Western Reserve Universityのリサーチフェロー

 
今年の7月からCase Western Reserve Universityのてんかん部門に1年半のリサーチフェローとして行けることになりました.このリサーチフェローの枠を狙っていて,直接交渉しに行って実現しました.
 
 
Case Western Reserve Universityは春と夏に2ヶ月間のInternational Epilepsy/EEG courseを開催しています.世界中から30人程度が集まり,有名なLuders先生を初め,様々な先生方から脳波のレクチャーを受けます.毎回の確認テストに加えて,カンファレンスと回診にも参加可能でとても教育的です.京都大学の池田先生もこのコースの卒業生です.
 
 
このコースで成績が優秀の場合,1年間のリサーチフェローの枠を獲得できます.僕は2ヶ月間のコースに参加して,何とかアピールしてリサーチフェローの枠の獲得を狙っていました.
 
 
津島先生と色々調整して,コースが始まる半年前の2月に担当の先生に直接会いに行きリサーチフェローとして来れないか交渉しました.前日の夜に津島先生と面接練習をして,CVと僕の2つの論文を持って臨みました.会話はスムーズに進み, 結果は”Welcome!”でした.あまりにあっさり決まったので驚きましたが,決まった時は本当に嬉しかったです.扉1つが開けた瞬間です.
 
 
リサーチフェローの内容は,フェローやアテンディング(上級医)と共に脳波レポート作成をしながら,臨床研究をするというものです.脳波レポート作成で臨床現場も経験できるので実践的でとても良い機会です.何としても1st Authorで1本発表したいため,交渉して1st Authorのプロジェクトをやらせてもらえることになりました.
 
 
この期間で,実践的な脳波読影,英語能力,コネクション,研究実績を高めるように頑張ります.ただその間,ECFMGの取得も同時並行で進めなければなりません.大変ですが,全てがうまくいけば,きっとマッチングに繋がると思います.
 
 
 

医学博士について

 
日本の先生方と話す機会が多く,日本のてんかん診療に携わる場合を考える良い機会でした.最終的に日本のてんかん診療に貢献したいため,日本で診療する場合,どこの病院に所属するかが大事になります.脳神経内科医が積極的に関わる施設は日本では少なく,国立大学病院,国立病院がメインです.国立の大学や病院では部長以上の役職には医学博士が必要になるため,指導的な立場になろうとする場合,医学博士が無いことが障壁になってしまいます.
 
 
臨床留学と共に医学博士を取るには,日本の大学に籍を置いて論文博士で取るか,米国で取得するかになります.論文博士はいつ無くなるか分かりませんし,どうせ取るならPIの能力を獲得するために米国の厳しいPh.Dトレーニングを受けたいと思います.
 
 
色々調べると,幾つかの大学でClinical/Translational ResearchのPh.Dのコースがありました.てんかん研究が盛んな大学では,Johns Hopkins, Case Western Reserve, Stanford, UCSF, Mt.Sinai, Pittsburgh, Wisconsin 等々と結構あります.On the Jobだと5~6年間くらいかかりそうです.レジデンシーかフェロー中に入学し,フェロー終了数年後に取得できれば非常に良いキャリアプランだと思います.
 
 
まとめ

てんかんの研究と臨床現場を経験し,研究発表の機会,臨床留学に繋がるリサーチフェローのポジションも獲得することが出来ました.ECFMGの取得,今後のリサーチの成果の為に,準備を怠らず1つずつしっかり取り組んでいきます.