先日、アメリカ臨床神経生理専門医 American Board of Clinical Neurophysiologyに合格しました。
ニッチな分野なのですが、今まで日本語での解説記事が無く、興味のある方もいると思いますので、その方々に向けた内容となります。
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アメリカ臨床神経生理専門医 American Board of Clinical Neurophysiology (ABCN) とは
The American Board of Clinical Neurophysiology (ABCN), Inc. (formerly The American Board of Qualification in Electroencephalography, Inc.) は、1946年にハーバート・ジャスパー医師によって設立された、最も古い独立した専門医組織の一つです。
臨床のトレーニングに加えて、Electroencephalography (EEG), Evoked Potentials (EP), Polysomnography (PSG), Epilepsy Monitoring, and Neurologic Intraoperative Monitoring (NIOM)をカバーするコンピュータベースの試験に合格すると、ABCNの専門医を得ることができます。日本人の場合、京都大学の池田先生、Wayne state universityの浅野先生、広島大学の片桐先生等が取得されています。
審査会は下記の2パートの試験を合格した受験者に1 つ以上のサブスペシャリティの認定証を発行します。
パート I
臨床神経生理学の中核となる知識が出題されます。これには、臨床神経生理学の中心的な内容をカバーする技術的、臨床的、基礎的な知識と理論が含まれます。
パート II
受験者は4つのサブスペシャリティー(General Clinical Neurophysiology、Epilepsy Monitoring、Neurophysiologic Intraoperative Monitoring、Critical Care EEG)から一つ選択します。問題はやや複雑で、より実践的なシナリオとサンプルが含まれています。
受験資格
大きく分けて、米国でレジデンシーの経験の有無で分かれます。
ABCNは米国でのレジデンシー経験がない受験者にも受験資格を与えています。
米国でのレジデンシーを終了した受験者
受験者は、ACGME、UCNS、またはRCPSC認定プログラムで、脳神経内科/小児神経内科、または脳神経外科、精神科などの関連分野、または麻酔科やクリティカルケアなどのクリティカルケア専門分野のレジデンシー・トレーニングを修了し、その分野の医療サブスペシャリティの資格を取得している医師でなければなりません。
さらに、受験者は、上級医の監督の下、Clinical Neurophysiologyフェローシッププログラムで最低12ヶ月間(フルタイム、またはパートタイムの延長トレーニングでフルタイムと同等のトレーニング)のトレーニングを修了している(または2ヶ月以内に修了する予定)必要があります。
米国以外でトレーニングをした受験者
ABCNは何と米国でのレジデンシー経験がない受験者にも受験資格を与えています。合格すれば”International Diplomate”として、資格を得ることができます。
受験資格は、本国での医師免許を有し、脳神経内科とClinical Neurophysiologyでのサブスペシャリティ研修をした者です。USMLEは必要ありません。
私は、日本で内科と脳神経内科を中心とした3年強の研修歴に加えて、クリーブランドでの1年以上のClinical Neurophysiologyの研修歴があるため、受験できることになりました。まだ脳神経内科専門医を持っていないのですが、事務局に確認したら受験可能とのことでした。International Diplomateの場合、曖昧な部分があるようです。
申込内容
年2回の受験期(5-6月、10-11月)があり、申し込みの締め切りがそれぞれ1-3カ月前になります。各自の受験期を確認したら、締め切りまでに下記を準備します。
International Diplomateの場合、下記の6つが必要になります。
- A completed ABCN online Part I Application and application fee.
- Webサイトにある用紙を記入して受験料を支払います。
- Documentation of completion of medical training and residency in neurology or related field.
- 私の場合、研修した病院に頼んで、いつからいつまでどのような研修(特に神経系・麻酔・集中治療系)をしたかの証明書を発行してもらいました。特定のフォーマットが病院に無かったので、事務の方と何回かやり取りしてオリジナルなものを作りました。
- Copy of a valid and current license to practice medicine.
- 厚生労働省に頼むと医師免許の英訳書を作成してくれます。かなりアナログで、作成依頼は郵送でしかできません。そのため、実家の親に英訳申請書のPDFをメールして、厚生労働省に郵送してもらいました。1-2か月くらいかかって実家に届きました。届いた英訳書をPDFにしてメールしてもらいました。
- Documentation from a CNP program director stating that the candidate “has completed 12 months of formal training in CNP and is competent to interpret EEGs and other CNP studies independently without supervision.”
- 現在の病院のEpilepsy/Clinical neurophysiology Program directorに頼んでサインしてもらいました。
- The completed scan forms for each part (I and/or II) being attempted (PDFs available on the website that may be emailed or faxed.)
- フォームの記載をしてPDFにします。
- The examination fee(s).
- 受験料を支払います。申し込み、2回の試験を合わせて20万円近くします..涙。
試験内容
試験内容はInternational Diplomateでも全く同様で、パート1とパート2に分かれます。
Part 1
Clinical Neurophysiologyの基礎的な内容を網羅的に出題します。
- Physiology and Instrumentation 30%
- Clinical EEG 30%
- EEG Recording Techniques 10%
- Clinical Evoked Potentials 10%
- Basic Principals of Intraoperative Monitoring 10%
- Clinical Sleep 10%
Part 2
4つのサブスペシャリティー(General Clinical Neurophysiology、Epilepsy Monitoring、Neurophysiologic Intraoperative Monitoring、Critical Care EEG)から一つ選択します。
私が受験したパート2のEpilepsy monitoringでは下記の内容が出題されました。
結構、ビデオ脳波が出題されます。
- Correlation of interictal EEG with seizure type 10%
- Identification of various patterns of ictal onset, propagation, and resolution along
with their localizing significance in scalp recordings 25% - Recognition of clinical manifestations of various seizure types, and their
appropriate classification 20% - Identification and localization of neonatal seizures 6%
- Recognition of behavioral features suggestive of non-epileptic events
15% - Planning and Interpretation of Intracranial Monitoring 2%
- Evaluation of patients for epilepsy surgery 12%
試験結果
Part 1
120問中81問正解(合格ライン72問正解)でした。
ややBAEPで苦労しましたが、思った以上にSSEPが取れていました。
Clinical EEGが思ったより悪いのは、小児の問題の影響かと思います。
Part 2
100問中77問正解(合格ライン75問正解)でした。
結構簡単な印象でしたが、ギリギリでした..汗。
Epilepsy surgeryとIctal onsetが足を引っ張ったのかと思います。
受験対策
受験対策は受験者の経験値で左右されるかと思います。
私の場合、毎日の大量の脳波判読と日々のカンファレンスで鍛えられていたので、基礎知識がある状態で臨むことができました。
しかし、SSEP、BAEP、Sleep medicine、脳波の基礎的な仕組み、小児やてんかん手術内容等の弱い部分に関しては、しっかり対策しなければなりませんでした。
なお、問題集を解くような本格的な対策は本番の1-2か月前から開始しました。
用いた問題集・参考書は下記になります。
ACNS Self-assessment
お勧め度 ★★★★★
1カ月で1万円と高額かつ問題が300問程度しかありませんが、似たような問題がでるので、利用することをお勧めします。試験直前の1カ月以内にやるのが良いかと思います。
誘発電位解釈のポイント 九州大学大学院医学研究院
お勧め度 ★★★★★
九大の飛松先生が執筆された無料でWebにあるPDFの資料です。
SSEP,BAEP,MEP,VEPなどの様々な誘発電位をポイントをわかりやすく簡潔に説明しています。誘発電位の概要をざっくり知るのにとても適しています。
Clinical Neurophysiology Board Review Q&A
お勧め度 ★★★★☆
主にこの問題集を使って対策しました。
本番よりも細かくて難しいですが、メインの問題集にするのが良いかと思います。試験に出ない分野(EMGなど)もあるので、その部分は飛ばしました。本番までに2周しました。
日本てんかん学会専門医ハンドブック
お勧め度 ★★★☆☆
参考書として、小児てんかんやてんかん手術を補強するために利用しました。
Clinical Neurophysiology 3rd edition
お勧め度 ★★★☆☆
SSEPやBAEPを理解するために使用しました。
結構詳しく書いてあり勉強になりましたが、活用頻度は低かったです。
Focus on Clinical Neurophysiology (Neurology Self-assessment)
お勧め度 ?????
以前に受講された先生に教えて頂き、解く予定でしたが、時間が無くて断念しました。
Clinical Neurophysiology Board Review Q&Aよりも問題数は少なく簡単なようです。
感想
Clinical Neurophysiologyに携わる医師にとって、USMLE無しでも取得可能な珍しいアメリカの専門医であるABCNは魅力的だと思います。日々の診療と試験対策をしっかりすれば、十分合格可能です。