救急や内科で原因不明の意識障害の脳波で周期的に出現する波で迷ったことはあるでしょうか?
三相波(Triphasic Wave)は脳全体に周期的に出現する異常波Generalized Periodic Patternの一部で、肝性脳症を含む代謝性脳症で多くみられる
しかし、痙攣性てんかん重責や非痙攣性てんかん重責の鑑別に迷うことがある
三相波とはどのような特徴か?どのように見分けるか?について解説する
要点まとめ
- 脳全体に周期的に出現する陰性波ー大きな陽性波ー陰性波で構成される三相の波
- 代謝性脳症に多く出現するが痙攣性てんかん重責や非痙攣性てんかん重責の鑑別に迷うことがある
- てんかんの既往やMRIの異常がなく、持続時間長く(>300msec)、タイムラグがあり、背景に徐波があると、代謝性脳症による三相波の可能性が高い
見た目の特徴(Morphology) 1-3)6)
三相波(Triphasic Wave)は陰性波ー陽性波ー陰性波で構成される三相の波で周期的に脳全体に出現する
定義
- 小さな陰性波(Wave 1) ー 大きな陽性波 (Wave2) ー なだらかな陰性波 (Wave3) の三相で構成される波
- Wave 2のAmplitudeが最も大きい
- Wave 1のAmplitudeはWave 3のAmplitudeよりも小さいことが多い
上に上がって、下に下がり、再び上に上がる三相構造
Wave毎のAmplitudeの比較 文献3)
- 三相波が1~2Hzの周期で脳全体に出現する
脳波全体に広がって見える 文献1)
その他の特徴
非典型的な形、出現の仕方について解説
Type 2 (Sharp and slow wave complexes)
- Type 1の他にWave1が尖ってみえるType 2があり、全体40%を占める
- Spike波のようにみえるので注意が必要
- Waves II と Wave III のAmplitudeがほぼ等しいのが特徴
Type1と比較してWave1が鋭く見える
Type 1(*)とType 2(+)が混在する脳波 文献3)
Anterior to Posterior lag
- 代謝性脳症が原因の場合、場所によってタイムラグ(>100Hz)が生じるのが特徴的
- 最も多いのが、前頭葉から後頭葉にかけて遅れて出現する anterior to posterior delay
- 代謝性に多いため、後述するNCSEの鑑別に役立つ重要な特徴
タイムラグの種類 文献3)
Anterior前頭葉からPosterior後頭葉にかけて少し遅れて出現している 文献2)
要因(Etiology)3)
肝性脳症が最も多いと思われているが、低酸素脳症で多くみられる
非代謝性では認知症でも多くみられる
- 代謝性: 低酸素脳症、肝不全、腎不全、多臓器不全
- 非代謝性:認知症、脳梗塞、硬膜下血種、血管炎、TIA
代謝性・非代謝性の要因別 文献3)
鑑別診断
三相波の判断で悩むことが多い
なぜなら、痙攣性てんかん重責、非痙攣性てんかん重責(NCSE)のてんかん波も三相波のように見えることが多いからである
そして、抗てんかん薬を使用すべきか否か?の判断が求められる
しかも、ベンゾジアゼピン・テストでは原因にかかわらず三相波が消えるためあまり役に立たない
そのため、どこを見て鑑別するかが重要になる
では、鑑別ポイントを下記に挙げる
三相波(Triphisic wave) vs てんかん波(Epileptiform Discharge)5)
てんかん患者が肝性脳症で三相波を来した症例で二つの違いを詳しく調べている
結論から言うと、てんかん波は、持続時間が短く、前頭葉でよく見られ、四相以上のことがある
三相波(Triphasic Wave)
- more posterior frontal/central maximum
- longer complex duration
- wider angle between phases II and III.
てんかん波
- 3 phase or more
- shorter duration
- Frontopolar (anterior frontal) maximum
Figure内の上の波がてんかん波で、持続時間が短く、鋭く、四相以上 文献5)
二つの波のちがいの特徴まとめ 文献5)
上が肝性脳症による三相波で、下がてんかん波 文献5)
三相波(Triphasic Wave) vs 三相波を持たない Generalized Periodic Pattern 6)
三相波もGeneralized Periodic Patternの一種だが、違いがある
結論から言うと、三相波を持たないPeriodic Patternは痙攣性てんかん重責の可能性が高い
その割合とスコアリングについて述べる
- 三相波は痙攣の可能性が28%だが、三相波を持たないPeriodic Patternは痙攣の可能性が93%とかなりの高い値(先行研究と比較して長く脳波モニタリングをしていたからとの考察)
- 痙攣を引き起こすPeriodic Patternの特徴
- focality on electroen- cephalogram (EEG)
- interburst suppression
- a history of epilepsy
- an abnormal scan
- 上記をスコア化したThe “GPD score”
a history ofepilepsy (1 point), focality on EEG (2 points), and the absence of triphasic morphology (3 points). Higher scores are associated with more risk of seizures in patients with generalized periodic discharges.
3点以上だと痙攣の可能性が50%を超える 文献6)
三相波(Triphasic wave)vs 非痙攣性てんかん重責(NCSE) 4)
痙攣も無く三相波に見えるが、実は非痙攣性てんかん重責の可能性がある
結論から言うと、NCSEの特徴は、三相波の頻度や時間が短く、三相波以外にスパイクがあり、背景波に徐波が少なく、Time lagが無く、反応性に乏しい
epileptiform discharges associated with NCSE
-
a higher frequency (mean=2.4Hz vs 1.8Hz) (p<0.001)
-
a shorter duration of phase one (p=0.001)
-
extra-spikes components (69% vs 0%) (p<0.001)
-
less generalized background slowing (15.1% vs 91.1%) (p<0.001).
-
Lag of phase two was absent in all cases
-
Noxious or auditory stimulation frequently had no effect
Triphasic wave
-
Amplitude predominance of phase two (40.8% vs 0%) (p=0.01).
-
Lag of phase two in 40.8% of patients with TWs.
-
Noxious or auditory stimulation frequently increased the TWs (51%)
三相波とNCSEの波の違い 文献 4)
予後( Prognosis)3)6)
- 代謝性/非代謝性ともに予後は良くない
- 入院中の死亡率は20%程度
- 2年間のフォローアップで予後良好群は代謝性16%(4/24)、非代謝性2%(1/35)
要点まとめ
- 脳全体に周期的に出現する陰性波ー大きな陽性波ー陰性波で構成される三相の波
- 代謝性脳症に多く出現するが痙攣性てんかん重責や非痙攣性てんかん重責の鑑別に迷うことがある
- てんかんの既往やMRIで問題なく、持続時間長く(>300msec)、タイムラグがあり、背景に徐波があると代謝性脳症による三相波の可能性が高い
参考文献
1.Hans L. Soheyl N. Altas of Epileptic Seizures and syndrome. (2001)
2.Lara V. Marcuse etal. Rowan’s PRIMER of EEG second edition. (2015)
3.Warren T. Blume. Brain (1998), 121, 1937-1949
4.Jean-Martin Boulanger et al. Can. J. Neurol. Sci. 2006; 33: 175-180
5.Peter W. Kaplan and Dan K. Schlattman, MSE. J Clin Neurophysiol 2012;29: 458–461
6. Ayham M et al. J Clin Neurophysiol 2017;0:1-7