野生脳

油と脳の関係― 良質な油が脳の機能を高める

はじめに

脳は体重のわずか2%しか占めませんが、全エネルギー消費の約20%を担う極めて代謝活性の高い臓器です。その構造と機能を維持するために欠かせないのが「脂質(油)」です。脳の乾燥重量の約50%は脂質で構成され、神経細胞膜の柔軟性やシナプス伝達、炎症応答の調整に関わっています。特に「良質な油」を適切に摂取することは、認知機能や精神的健康を守るうえで重要です (Chianese et al., 2018)。


脂肪酸の種類と特徴

飽和脂肪酸(SFA)

  • 動物性脂肪(バター、ラード、肉の脂)に多く、室温で固体になりやすい。

  • 過剰摂取は炎症や動脈硬化リスクを高める。

  • ただしギーや発酵バターには中鎖脂肪酸が含まれ、エネルギー源としては有効。

  • ココナッツオイルはMCTを豊富に含み、素早くケトン体に変換され脳の代替燃料となる。

一価不飽和脂肪酸(MUFA)

  • 二重結合を1つ持つ脂肪酸。

  • オリーブオイル:地中海食の中心。心血管保護、抗酸化作用。

  • アボカドオイル:オレイン酸が豊富でオリーブオイルと似た性質を持つ。ビタミンEを多く含み、抗酸化作用に優れる。加熱にも強く、炒め物や焼き物にも適している。

多価不飽和脂肪酸(PUFA)

  • オメガ3(EPA、DHA):青魚、えごま油、亜麻仁油に多く、抗炎症・神経保護作用を持つ。認知症やうつ病予防にも関連。

  • オメガ6(リノール酸):コーン油、大豆油など。必須脂肪酸だが過剰は炎症を助長。

  • 理想的な摂取比は「オメガ6:オメガ3=5:1」だが、現代食は20:1に偏りがち (Chianese et al., 2018)。可能であれば、「オメガ3:オメガ6=1:1」として、オメガ3の比重を高める。


良質な油が脳に与える効果

認知機能の改善

オメガ3脂肪酸やMUFA(オレイン酸)は神経膜を柔軟に保ち、シナプス伝達や神経可塑性を改善します。アボカドオイルやオリーブオイルは日常的に取り入れやすく、抗酸化作用も強いため脳の老化予防に役立ちます。

神経疾患の予防

MCTオイルやココナッツオイルは迅速にケトン体を産生し、てんかん治療やアルツハイマー病研究で注目されています (Kossoff et al., 2018; Zhu et al., 2022)。

インスリン抵抗性と脳機能

飽和脂肪酸の過剰は脳のインスリン抵抗性を悪化させ、認知症リスクを高めます。一方、MUFAやオメガ3はそのリスクを軽減する可能性があります (Milstein & Ferris, 2021)。


避けるべき油

  • トランス脂肪酸:マーガリン、ショートニング、加工菓子など。炎症促進・認知機能低下に関連。

  • 酸化された油:長時間の揚げ油や保存状態の悪い油。酸化脂質は神経毒性を持ち、脳細胞障害を引き起こす。

  • オメガ6の過剰摂取:加工食品や外食で摂りすぎやすく、炎症体質を助長。


日常生活での油の選び方

  • 積極的に摂る油:オリーブオイル、アボカドオイル、青魚、えごま油、亜麻仁油、MCTオイル、ココナッツオイル。

  • 適量にする油:ギーやバター(少量なら有効なエネルギー源)。

  • 避ける油:トランス脂肪酸、酸化油、過剰なオメガ6を含む工業的植物油。


私の油の使い方

油の発煙点や酸化のしやすさから、料理や摂取方法によって、下記を使い分けています。

  • 炒める油:ギー、アボカドオイル

  • 揚げ物の油:アボカドオイル

  • サラダやスープにかける油:オリーブオイル、アボカドオイル、えごま油、MCTオイル

  • コーヒーに入れる油:MCTオイル
  • その他:魚は食事かなるべく多くとる

まとめ

  • 脂質は脳の構造と機能に直結する。

  • MUFA(オリーブオイル・アボカドオイル)とオメガ3脂肪酸は脳を守る強力な栄養素。

  • MCTやココナッツオイルは代替燃料として集中力や神経疾患予防に有効。

  • トランス脂肪酸、酸化油、オメガ6過剰摂取は脳に有害。

油の「質」と「バランス」を意識することが、脳の健康と日常パフォーマンスを高める鍵です。


参考文献(ハーバード式)

  • Chianese, R., Coccurello, R., Viggiano, A., Scafuro, M., Fiore, M., Coppola, G., Operto, F.F., Fasano, S., Layé, S., Pierantoni, R. and Meccariello, R., 2018. Impact of dietary fats on brain functions. Current Neuropharmacology, 16(7), pp.1059–1085. doi:10.2174/1570159X15666171017102547 .

  • Kossoff, E.H., Zupec-Kania, B.A., Auvin, S., Ballaban-Gil, K.R., Bergqvist, A.G.C., Blackford, R., Buchhalter, J.R., Caraballo, R.H., Cross, J.H., Dahlin, M.G. and Donner, E.J., 2018. Optimal clinical management of children receiving dietary therapies for epilepsy: updated recommendations of the International Ketogenic Diet Study Group. Epilepsia Open, 3(2), pp.175–192. doi:10.1002/epi4.12225 IF: 2.9 Q2 B3.

  • Milstein, J.L. and Ferris, H.A., 2021. The brain as an insulin-sensitive metabolic organ. Molecular Metabolism, 52, 101234. doi:10.1016/j.molmet.2021.101234 IF: 6.6 Q1 B2.

  • Zhu, H., Bi, D., Zhang, Y., Kong, C., Du, J., Wu, X., Wei, Q. and Qin, H., 2022. Ketogenic diet for human diseases: the underlying mechanisms and potential for clinical implementations. Signal Transduction and Targeted Therapy, 7(1), p.11. doi:10.1038/s41392-021-00831-w