3週目はてんかんの症候学と手術部位決定法を築いたLüders先生による素晴らしい講義でした。
なぜなら、Lüders先生との対話を通して、奥深い症候学、緻密な解剖学に基づいたてんかんの見方を学べたからです。
それでは、一週間の概略を述べさせて頂きます。
Contents
Semiology
一週間のメインは、てんかん発作を分類する方法(Semiology)でした。
Lüders先生が1998年に発表したSemiological Seizure Classification (SCC) は、日本てんかん学会の専門医ガイドブックでも用いられています。
ILAEの2017年 分類よりも特異的に分かれているため、一旦理解すれば覚えやすいです。
Epilepsia, 39(9):1006-1013, 1998
→Lüders先生の分類は特異的な呼び方がありますが、覚えやすいです。
Epilepsia, 58(4):531–542, 2017
→ILAEの2017年の分類はシンプルになったのですが、かえって覚えづらいです。
Aura
まず、てんかん発作の前兆症状であるAuraを学びました。
Auraは短く主観的な症状で他覚的な異常がないことが特徴です。
例えば、動悸があっても頻脈はない、吐き気を訴えても蠕動運動亢進は無いというものです。
Auraは8種類あり、解剖毎に症状が異なります。
Seizure
その後、様々なSeizureパターンについて学びました。
Autonomic Seizures→Discognitive Seizures→Motor seizure→Special Seizuresの順番です。
色々なSeizureの動画をみながら、どのように変化をしていくか詳細に記述する方法を訓練しました。どこに着目するか、どう見分けるか、どう変化するかを細かく学びました。
目から鱗が落ちるレクチャーでした。かなり見方が変わりましたが、まだまだ訓練が必要です。
Discognitive SeizuresではLuders先生が発見したDialeptic Seizures (ILAE 2017年の分類ではFocal impaired awareness)をメインに教わりました。
Dialeptic Seizureは脳波の異常放電とは独立しててんかん発作前後にUnresponsiveになる発作です。
多くのてんかん発作はDialeptic Seizureを伴いますが、Dialeptic Seizureのみの場合もあります。
Lateralizing Sign
最後はてんかん発作発現部位を示唆するLateralizing Signです。
例えば、屈曲する腕と伸展する腕の姿勢で4の字に見えるSign of 4 があります。
これは進展している手の逆側の補足運動野(SMA)がてんかん発作発現部位です。
例えば、左手が進展していれば、右側の補足運動野(SMA)が原因となります。
他に、Nose wiping Sign(鼻ぬぐいサイン)という面白いサインがあります。
てんかん発作直後に一方の手で鼻を拭うサインです。
自律神経症状によって鼻水の分泌が増えるため、発作が生じていない動かせる側の手で鼻を拭うのです。
つまり、鼻を拭った側がてんかん発作の発現部位です。
対話を中心とした授業
Lüders先生の授業スタイルは受講生に質問して考えさせ、その後に解説して、さらに受講生からの質問に答えるというものです。
ビデオや脳波を用いますが、パワーポイントを用いない古典的な教授法です。
しかし、この対話のスタイルは受講生に考える機会と想起する機会を与えるため記憶に定着しやすいです。
てんかん原生と伝播
Lüders先生が2006年に築いたてんかん原生と伝播の理論について学びました。
この考え方は現在のてんかん手術部位決定の理論となっています。
この中で大事なのは、いかにEpileptogenic Zone「てんかん発作がはじまる必要十分な領域で、切除またが完全遮断によりてんかん発作の消失をもたらす最小単位」を同定するかです。
なぜなら、症候のみ、あるいは脳波・画像所見のみから推測した部位を切除しても発作が止まらないことがあるからです。
複合的に考えてEpileptogenic Zoneを同定しなければなりません。
つまり、手術後に発作が止まったら、切除部位にてんかん発作がはじまる必要十分な領域が含まれていたということになります。
手術後でないと正しい切除部位だったか分からないのです。
とても逆説的な考えです。
では、Epileptogenic Zoneをもう少し説明します。
Epileptogenic Zoneとは?
Epileptogenic Zoneは「てんかん発作がはじまる必要十分な領域で、切除またが完全遮断によりてんかん発作の消失をもたらす最小単位」と述べました。
別の言い方では、てんかん発作を生じさせる部位(Siezure Onset Zone)と今後生じさせる可能性のある部位(Potential Siezure Onset Zone)の総和を含んだ部位になります。
この両方を切除することで、Seizure Freeとなります。
下の図を見てください。
Epileptic Disord 2006; 8 (Suppl. 2): S1-9
→切除部位がてんかんを生じさせる部位(Siezure Onset Zone)と今後てんかん波を生じさせる部位(Potential Siezure Onset Zone)の両方を含んでいるため、Seizure Freeになります。
Epileptic Disord 2006; 8 (Suppl. 2): S1-9
→てんかん波を生じさせる部位(Siezure Onset Zone)を取り切れていないため、Seizureが継続します。
Epileptic Disord 2006; 8 (Suppl. 2): S1-9
→今後てんかん波を生じさせる部位(Potential Siezure Onset Zone)を取り切れていないため、Seizureが継続します。
では、Potential Siezure Onset Zoneが分かれば良いのでは?と疑問に思ったのではないのでしょうか。
残念ながら、Potential Siezure Onset Zoneを確実に同定する技術はまだ無いのです。
そのため、症候、様々な検査から推測して手術部位を決定するのです。
その他に4つのエリアがあるのですが割愛させて頂きます。
後で分かりやすいまとめをアップ出来ればと思います。
自分で半年かけても良く理解できなかったのものがかなりクリアになりました。
本人から直接習えたのは本当に幸運です。
Detailed Evaluation and Systematic thinking
宿題の脳波を参考に一つの異常波をどのように分析するかを学びました。
受講生が自主的に皆の前に出て発表してLüders先生が訂正する流れです。
<分析方法>
-
BipolarかReferentialか
-
何番目のChainを選ぶか
-
Point in time があるか
-
Phase ReversalはPositiveかNegativeか
-
Conclusion
受講生達はバンバン質問する一方で、人前に出るのは緊張するのか、あまり発表する人はいません。
私も躊躇っていたのですが、貴重な機会なため、最終日に手を挙げて挑みました。
Lüders先生が最後に”Excellent”と言ってくれて嬉しかったです。
前に出た人に大体言っているのですが、実際に言われると嬉しいですね。
本当に貴重で宝物のような一週間でした。
Next Week
来週は小児のてんかんを中心に学びます。
さらに、中間テストがあります。
精一杯頑張ります。