脳とライフスタイル

オリーブオイルと脳の健康 ― 認知症関連死を減らす可能性

はじめに

私たちの食卓に身近な存在であるオリーブオイルが、実は「脳の健康」に深く関わっていることをご存知でしょうか。地中海沿岸では古くから料理に欠かせない油として親しまれてきましたが、近年の疫学研究では、心血管疾患だけでなく認知症予防にも有益であることが次第に明らかになってきています。2024年に米国で発表された大規模コホート研究(Tessier et al., 2024)は、長期的なオリーブオイル摂取と認知症関連死との関連を直接的に検討し、注目を集めました。

Tessier, A.J., Cortese, M., Yuan, C., Bjornevik, K., Ascherio, A., Wang, D.D., Chavarro, J.E., Stampfer, M.J., Hu, F.B., Willett, W.C. and Guasch-Ferré, M. (2024) ‘Consumption of olive oil and diet quality and risk of dementia-related death’, JAMA Network Open, 7(5), p.e2410021. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.10021.

研究の概要

この研究は、米国で行われている看護師健康調査(Nurses’ Health Study)および医療従事者追跡調査(Health Professionals Follow-up Study)を対象とした前向きコホート研究です。1990年から2018年まで、約9万2000人の男女(平均年齢56歳)を対象に28年間追跡しました。

参加者は、食事アンケートを4年ごとに回答し、オリーブオイルの摂取量を「ほとんど摂らない」「4.5g以下」「7g以下」「7g以上」に分類。その後、死亡診断記録から認知症関連死を確認し、オリーブオイル摂取量とリスクの関係を統計的に解析しました。

主な結果

結果は非常に興味深いものでした。

  • オリーブオイルを1日7g以上(大さじ約半分)摂取していた人は、認知症関連死のリスクが28%低下(ハザード比 0.72, 95%CI 0.64–0.81)していました(Tessier et al., 2024)。

  • 効果は「7g以上」で最も顕著でしたが、少量の摂取でも有意なリスク低減が認められた点も重要です。つまり、毎日の食事に少しずつ取り入れるだけでも脳にプラスの効果が期待できます。

  • マーガリンやマヨネーズをオリーブオイルに置き換えると、認知症関連死のリスクは8〜14%低下。バターや他の植物油からの置き換えでは有意な効果は見られませんでした。

  • さらに、7g以上かつ食事全体の質(AHEIスコア)が高い人では、認知症関連死のリスクがさらに低下しており、オリーブオイルと健康的な食事パターンの相乗効果が示されました。

なぜオリーブオイルが効くのか

オリーブオイルには、一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)をはじめ、ビタミンEやポリフェノールなどの抗酸化物質が豊富に含まれています。これらは脳内での酸化ストレスや炎症を抑える働きがあり、神経細胞を守る「神経保護効果」を持つと考えられています(Guasch-Ferré et al., 2022)。また、オリーブオイルを中心とした地中海食は、血管機能の改善やインスリン感受性の向上を通じて、認知機能低下を防ぐ可能性があります。

臨床的意義

この研究の重要な点は、「全体的な食事の質」にかかわらず、オリーブオイル単独でも効果が確認されたことです。7g以上+AHEIスコアが高い、すなわち全体的にバランスの良い食生活をしている人では、リスク低下効果がより強く現れることも示されました。つまり、オリーブオイルは単独で効果を発揮しつつ、健康的な食事パターンの中でさらに大きな力を発揮する「キー食材」といえるでしょう。

他の研究との関連

今回の結果は、スペインのPREDIMED試験で報告された「オリーブオイルを多く摂取する地中海食が認知機能低下を抑える」という知見(Martínez-Lapiscina et al., 2013)とも一致します。さらに、オリーブオイル摂取が心血管疾患や全死亡率を下げるという過去の報告を補強するものです。

まとめ

  • オリーブオイルを1日7g以上摂取すると、認知症関連死のリスクが約3割低下。

  • 少量でもリスク低減効果があり、毎日の習慣として取り入れる価値が高い。

  • AHEIスコアの高い食事パターンと組み合わせることで、さらにリスク低下効果が強まる

  • オリーブオイルは、日常的に取り入れやすく、脳と心の健康寿命を延ばす可能性がある食品。


参考文献

  • Tessier, A.J., Cortese, M., Yuan, C., Bjornevik, K., Ascherio, A., Wang, D.D., Chavarro, J.E., Stampfer, M.J., Hu, F.B., Willett, W.C. and Guasch-Ferré, M. (2024) ‘Consumption of olive oil and diet quality and risk of dementia-related death’, JAMA Network Open, 7(5), p.e2410021. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.10021.

  • Guasch-Ferré, M., Hruby, A., Salas-Salvadó, J., Martínez-González, M.A., Sun, Q., Willett, W.C. and Hu, F.B. (2022) ‘Olive oil consumption and cardiovascular risk’, Journal of the American College of Cardiology, 79(2), pp.101-114. doi:10.1016/j.jacc.2021.11.012.

  • Martínez-Lapiscina, E.H., Clavero, P., Toledo, E., Estruch, R., Salas-Salvadó, J., San Julián, B., Sanchez-Tainta, A., Ros, E., Valls-Pedret, C. and Martinez-Gonzalez, M.A. (2013) ‘Mediterranean diet improves cognition: the PREDIMED-NAVARRA randomised trial’, Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry, 84(12), pp.1318-1325. doi:10.1136/jnnp-2012-304792.