Case Western Reserve University

アメリカでの研究・臨床留学を志した4つの理由: データと個人の視点から

 
医学生、若手医師なら、留学について考えたことがあると思います。
 
私もその一人で、医学生時代からアメリカ留学への憧れを抱いていて、研修医になった後も常にチャンスを伺っていました。
 
ただ、「何でそんなにアメリカに留学したいの?」とよく聞かれます。
 
皆さんの中で、漠然と留学に興味があるけれど、具体的な理由が分からないという方がいるかもしれません。
 
その方々に参考になればと思い、データと個人的な見解を踏まえた4つの理由を述べます。
 
 
要点まとめ

  • 量質ともに高い研究と圧倒的な数の臨床経験をつめる
  • イノベーションの現場と効率的な働き方を学べる
  • 異文化の交流から広い視野と英語力を獲得できる
  • 失敗を許容し挑戦を続けられる環境がある

① 医学と医療技術を学ぶため

 

アメリカに留学する最大の理由は、てんかんに関する研究と臨床技術を学ぶためです。

 

アメリカの臨床医学研究の質は日本よりも25倍高い

 
アメリカは世界の臨床医学の論文数の30%のシェアを占め、さらにTop10%の論文では50%を占めています。
 
 
図1. 「臨床医学」分野における論文数(A)とTop 10%補正論文数(B)の国際シェア推移
sunrise.labより引用
 
 
図2.主要国の分野別論文数シェア 文部科学省 科学技術指標2019より引用
 
 
特に、Top10%、Top1%と質が高くなるにつれて日米の差は大きくなります。
 
具体的に言うと、アメリカは日本に比べて全ての臨床医学の論文数は6倍、Top10%の質の高い論文になると25倍の差があります。
 
普段、論文を読みながら何となく感じていましたが、改めてデータを見ると差の大きさを実感します。
 
つまり、米国で研究をすれば質の高い研究をできるチャンスが高いといえます。
 
研究で驚くような業績を上げたいのなら、若いうちになるべく米国で研究する時間を増やす戦略をとる方が良いです。
 
例えば、何となく日本の大学院に行くのではなく、日本で後期研修が終わったら米国の博士課程を目指すなどです。
 
 
 
その他に注目すべきポイントとして、中国の猛追がすさまじく、10年後には中国が米国を追い抜いてる可能性があります。
 
同じリサーチフェローの中国人に聞いたところ、中国では論文の成果が直ぐに給料に反映されるらしいです。
 
なぜなら、病院ランキングに論文発表が影響するため、良い研究をしている病院は高くランクされて患者の獲得につながるからです。
 
 
 
日本よりも人口が少ないイギリスやドイツは質の高い臨床医学のシェアは上昇しているのに加えて、長年にわたり研究の質と量が安定しています。
 
アメリカや中国のように人口動態が日本とかなり異なる状況では、イギリスやドイツの生産方式の方が日本に適しているのかもしれません。
 
 
すなわち、研究を学ぶのなら現在なら米欧、将来は米欧中が適しているということが読み取れます。
 

てんかんの研究の中心地はアメリカである

 
てんかんの研究においても中心地はアメリカです。
 
なぜなら、てんかんに関する全ての論文の25%はアメリカから発表され、被引用回数も多いからです。
 
 
図3.てんかん論文数の被引用数の世界順位 Gupta B, Bala A. Annals of neuroscience 2013 april;30.2
 
 
一方、日本の論文数は世界6位で、特に1論文当たりの被引用数が低いです。
 
臨床医学の研究と同様に、日本の研究の質の低さが表されています。
 
西欧や北欧、米国の論文は引用数が高いのに対し、アジア、東欧の論文は被引用数が低いです。
 
質の高い発表をしたいのなら、西欧、北欧、米国の方が適しているといえます。
 
 
日本は製品などのものづくりにおいては高品質かもしれませんが、本質的な思考や発見に関しては悲しいですが低品質ということが考えられます。
 
 

クリニカル・フェローシップでは、症例集約化により効率的な経験がつめる

 
アメリカ臨床留学の真髄はクリニカル・フェローシップと考えられます。
 
何故なら、症例集約化と整備されたプログラムにより、高度な技術を用いながら多くの症例を経験出来るからです。
 
例えば、てんかん手術において、日本は年間約500例ですが、同じクリーブランド内のクリーブランド・クリニックでは年間約300例です。
 
つまり、1施設で日本全体の半分以上の症例を経験出来る可能性があります。
 
言い換えると、日本の年間10例の施設に勤めていれば30年間かかる症例数を1年で経験出来ます。
 
 
さらに、症例数だけでなく、日本では使用していない新たな診断方法や治療方法を用いています。
 
 
臨床留学でのクリニカルフェローの利点についての記載がある書籍
 

 

てんかん診療体制を学ぶ

 
アメリカでは、重症度や難易度に応じたLevel別のてんかん診療が行われています。
 
非常にシステマティックで脳神経内科が中心となっているシステムです。
 
具体的には、下記の診療体制が連携し合って、難治性となればLevel3以上の高度医療センターに紹介するシステムが出来ています。
 
 

Level1 家庭医や救急医などが診療

Level 1 epilepsy care typically occurs at an emergency room or a primary care physician’s office with an epilepsy evaluation.

 
 
Level 2 非てんかん専門の脳神経内科医が診療
Level 2 epilepsy care involves a consultation with a general neurologist. This consultation may occur at a specialized epilepsy center.
 
 
Level 3 and 4 てんかん専門医と高度な医療チームが診療
Levels 3 and 4 care takes place at specialized epilepsy centers.
 
 
 
日本でもようやく診療体制が出来てきましたが、まだまだ発展途上な状態です。
 
 

② 経済の視点から高い生産性を学ぶため

 
 
日本の一人当たりの生産性は後進国に近い一方で、アメリカ人の生産性は日本人の1.6倍です。
 
具体的に言うと、日本の生産性は先進国最低ラインの39000ドルで世界24位です。
 
一人当たりのGDPが30000ドル以下の場合に発展途上国となるため、日本は発展途上国に近い位置です。
 
 
図4.一人当たりGDPの世界順位  Wikepedia 国際通貨基金2018年 データより
 
 
一方、GDP全体が世界第3位でいられるのは、単純に人口が多いからです。
 
一人当たりのGDPは低いのですが、人口で何とか全体のGDPを保っています。
 
 
ちなみに、GDPの計算式は付加価値/人数x時間になります。
 
同じ付加価値でも人数が多く、時間がかかればGDPは下がります。
 
日本のように長時間労働かつ、完璧主義の過剰なサービスが価格に反映しづらい状況では一人当たりのGDPは下がります
 
逆を言えば、合理主義で短時間に仕事を終えることができれば、生産性は上がります。
 
 
アメリカは非常に合理主義な国で、サービスも価格に反映されるため、日本とは正反対な国です。
 
留学して4カ月くらい経ちましたが、やはり、合理主義で素早く仕事を進めていくやり方は学ぶべきことが多いです。
 
 
 
働き方に加えて、大事なのはいかにして今までにない付加価値を作れるかです。
 
つまり、イノベーションを起こせるかです。
 
Google, Facebook, Apple, Amazonといった近年のイノベーションを牽引する会社はアメリカから出現しています。
 
おそらく、失敗に寛容な環境、ベンチャーキャピタルによる投資環境で失敗しても起業家が借金を負わない環境、様々な人がいる多様性、激しい競争社会から生まれていると思います。
 
私も、このアメリカの地で新たなイノベーションを生みだしたいと考えています。
 
それは、研究での新たな発見、てんかんに関する新たなサービスです。
 
 
 
 

③ 多様な社会から広い視野と英語力を学ぶため

 
アメリカ留学は研究や臨床の実績だけでなく、異文化との交流から学べることが多いです。
 
なぜなら、2大研究留学サイトのアンケートから、留学の最大のメリットは幅広い経験、異文化交流、人的つながりなど、研究成果とは関係ないことを挙げているからです。
 
つまり、留学開始時には研究結果を期待していたけれど、留学後に気づいたのは幅広い経験や人的つながりが最も貴重な経験だったということが先人が示しています。
 
図5.研究留学の動機と実際のメリット 実験医学 online UJA アンケート結果より
 
 
図6.研究留学のメリット   研究留学ネット アンケート結果より
 
 
私自身もこのデータから納得できる部分があります。
 
具体的には、日本では決して経験することが出来ないであろう人々との出会い、文化や宗教の違い、各国の状況を知ることができます。
 
日本についても外から冷静に色々と考える機会を得られました。
 
さらに、かなり苦労しますが英語力も身につけることができます。
 
 
上記のアンケート結果を行った書籍
 
 

 
 

④ 挑戦を続ける人生のために

 
最後は私個人の人生の視点から、ハイリターンが望める場で思い切りチャレンジをしたいという思いからです。
 
幼いころから野球や音楽でアメリカに憧れがあり、医学を学び始めてからもアメリカで学びたいという気持ちが強くありました。
 
それは、常に新しくダイナミックな動きがあるアメリカでチャレンジしたいという好奇心が突き動かしているのだと思います。
 
 
人生は一度切りだし、ハイリスクでもハイリターンが望めるのならば、挑戦を選びます。
 
失敗するかもしれないが、失敗したらそこから学んで、また挑戦すれば良い、そう思っています。
 
激変する世の中ではチャレンジしないで、何となく他人の生き方に追随することがハイリスクであるため、どちらにせよリスクは一緒ではないでしょうか。
 
 
それならば、挑戦を続け、失敗を受け入れ、上手くいくまであきらめない戦略を取ろうと思います。
 
いくつもの失敗の先に、きっと大きな果実が待っていると信じています。
 
 
 
要点まとめ

  • 量質ともに高い研究と圧倒的な数の臨床経験をつめる
  • イノベーションの現場と効率的な働き方を学べる
  • 異文化の交流から広い視野と英語力を獲得できる
  • 失敗を許容し挑戦を続けられる環境がある