はじめに
2025年のアメリカてんかん学会(American Epilepsy Society, AES)に参加してきました。今回の参加は2年ぶりでしたが、非常に学びが多く、新しい発見と出会いにあふれた4日間でした。
主に「遺伝」「個別化医療」「AI」「脳波」「ケトン食」を中心に聴講しました。
2年前と比べ、自分自身の遺伝学の理解が深まり、ディスカッションでも自信を持って臨むことができました。ここでは、印象に残ったトピックを中心に共有します。
遺伝学の最新動向
遺伝学的検査の重要性が急速に高まっており、「誰に・どのような検査を・いつ行うべきか」について多くの議論がなされていました。
今年、AESの公式サイトにも遺伝学的検査に関する推奨指針が公開されました。PRISMAやGRADEに準拠した厳密なガイドラインではないものの、非常に実践的でわかりやすい内容でした。
また、アメリカ遺伝カウンセラー協会(NSGC)が作成したガイドラインをもとに、AESが内容を整理して発表したようです。
🧬 検査の適応と推奨範囲
適応は「原因不明」「薬剤抵抗性」「合併症を有するてんかん」など、非常に広範囲に設定されていました。実際、全体の約60%の患者が原因不明てんかんとされるため、多くの患者が検査対象となります。
推奨される検査法は以下の通りです。
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全ゲノム解析(WGS)
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エクソーム解析(WES)
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25遺伝子以上を対象とした遺伝子パネル
理想的な順序としては、WGS → WES → パネルの順で検討すべきとのことでした。
アメリカでは保険会社ごとにカバー範囲が異なり、州や施設によって実施状況が大きく異なります。
さらに、WGSやWESでは遺伝専門医との共同解釈が求められることが多いため、臨床体制によって選択する検査が変わる点も興味深いところです。
全ゲノム解析では、てんかん関連遺伝子以外の所見も報告するかどうかを事前に選択できる仕組みが整備されています。実際に臨床現場でどのように運用されているのかを直接聞くことができ、とても参考になりました。
また、アメリカではFDAの承認を得なくても、品質が保証された検査センターや大学研究機関での解析結果が保険適用になるという点も大きな特徴です。
一方で、日本で保険でカバーされるには、PMDAの承認と保険収載が必須であり、制度的なハードルの高さを改めて実感しました。
自身の発表
今回のAESでは、
「Prediction of Epilepsy Using Machine Learning on Integrated Polygenic Risk Scores and Perinatal Data: A Three-Generation Birth Cohort Study」
というタイトルで発表を行いました。
東北メディカル・メガバンク三世代出生コホートのデータを用い、周産期情報とポリジェニックリスクスコア(PRS)を統合し、機械学習でてんかん発症リスクを予測するという内容です。
ありがたいことにポスターツアーに選出され、さらに西海岸の有名大学から共同研究のお誘いもいただきました。
発表した甲斐があり、研究者として大きな励みになりました。
コラボレーションが実現すれば、よりスケールの大きい研究が展開できそうで、今から非常に楽しみです。
ネットワーキングの充実
留学先のCase Western Reserve Universityの同窓会にも参加し、恩師や同僚と再会できました。
また、YES-ILAEや日本人会を通じて多くの新しい出会いもあり、改めて現地参加の価値を実感しました。
やはり学会の醍醐味は、知識だけでなく「人とのつながり」ですね。来年もぜひ現地で参加したいと思います。
ケトン食と行動科学
ケトン食導入に関するセッションでは、アドヒアランス(継続)の課題が注目されていました。
特に印象的だったのは、COM-Bモデル(Capability, Opportunity, Motivation–Behavior model)に基づいて患者の行動変容を分析していた発表です。
これまで「食事内容」にばかり目を向けがちでしたが、実際には教育・心理的サポート・環境整備が継続の鍵になることを改めて認識しました。
ケトン食の成功は単なる栄養指導ではなく、チームで支える包括的アプローチが必要だと感じました。
アトランタでの滞在
開催地のアトランタはコンパクトで移動しやすく、とても快適でした。コカ・コーラ発祥の地として有名で、コカ・コーラ博物館(World of Coca-Cola)ではブランドの歴史や試飲体験を楽しみました。
学会期間中の懇親会では「本場のダイエットコーク」を愛飲。
正直、日本より少し甘い気もしましたが(笑)、雰囲気込みで美味しかったです。
おわりに
アメリカに来ると、やはりこの国の活気と多様性に刺激を受けます。「もう一度、この場所でチャレンジしたい」――そんな気持ちが再び芽生えました。
次のステップがどんな形になるかはまだ分かりませんが、今回のAESで得た経験とネットワークを大切に、また次の挑戦につなげていきたいと思います。
✈️ アメリカてんかん学会2025 in Atlanta:学び・発見・再会に満ちた4日間でした。
